『身寄りなきおひとりさま』死後の手続きと備え【死後事務委任契約とは】


記事監修者:一般社団法人終活協議会代表理事:竹内義彦

記事監修者:一般社団法人終活協議会代表理事:竹内義彦
みなさんは、今日死んでしまったと仮定した場合に、自分のことに関する手続き業務がどれくらい残っているか把握できていますか?
「水光熱費の支払い」「携帯やインターネットの解約」などと、あげていけば想像以上に多くてびっくりするのではないでしょうか。ひとり暮らしや身寄りがない場合は「家の片付け」「自治体への死亡届」といった死亡した後のことにおいては、自分ではどうしようも出来ないものもあります。
そうした、生きているうちに片づけることが出来ない手続きのことを「死後事務」といいます。
今回は、生涯独身や身寄りがないといった「おひとりさま」に焦点をあて、死後事務の手続きに関する「死後事務委任契約」についてお伝えしていきたいと思います。
身寄りなき「おひとりさま」の死後を託す死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは、自分の死後の諸手続きを第三者に行ってもらう代理権を付与する契約をいいます。
通常であれば、自分が命を引取ったあとには遺族が「遺品整理」「相続」「死後事務」をします。
配偶者や子どもといった、身近に頼れる人がいなければ疎遠になっている親族に頼まなければならない場合もでてきますし、親族がいない場合、最終的に自治体が死後事務をすることになっています。少子高齢化の日本は、4世帯に1世帯が独居高齢者というデーターが出ており「死後事務」が社会問題となっていくことが予想されていています。
夫婦のみで暮らす高齢者の方々も、独居高齢者の予備軍となりますし、多くの日本在住の方々が自分の死後事務に不安を抱えています。
不安を抱える理由として「何も準備ができていない」ということがあるのではないでしょうか。「何も準備ができていない」根源には「何からどう手を付ければいいのか分からない」というものがあるのではないでしょうか。
不安を不安のままにして「おひとりさま」として他界してしまった場合は、思いもよらない疎遠の親戚や他者に迷惑をかけてしまうこともあるのです。
そうした事態を防ぐために「死後事務委任契約」というものがあります。
いつ「死後事務委任契約」を結ぶのか
死後事務委任契約は、委任する側(本人)に意志決定能力があり心身ともに健康なうちに契約を結ぶ必要があります。
認知症や重度の介護状態となり、意思疎通の能力が著しく低下した状態では「本人の判断」「本人の記憶」などもはっきりとしませんので契約自体を結ぶことが出来ません。
民法653条により「委任者または受託者の死亡により委任契約は終了する」ということが定められています。しかし、死後事務委任契約は委任者の死亡後の事務を委任する契約なので、死亡により委任契約が終了しては困ります。
民法653条の規定は任意法規(契約によって変更できる法規)という形が判例としてとられています。死後事務委任契約も「委任者の死亡によって委任が終了しない」と認められるとされています。
誰と「死後事務委任契約」を結ぶのか
「死後事務委任契約」の受託者になるのに、資格や規定は特にありません。誰でも「死後事務委任契約」の受託者になれるのです。
よく受託者としてあげられるのが、次のような方たちです。
- 弁護士
- 行政書士
- 司法書士
- 親族
- 親しい友人・知人
「親族」も例として挙げましたが、死後事務を受けてくれるような親族がいる場合は、よほど強い希望がない限り「契約」として結ぶ必要もないですよね。
親しい友人や知人が「死後事務」を受けてくれる場合はお願いしてみてもいいでしょう。しかし、専門の知識がない一般の人が「死後事務」を受けた場合、慣れない手続きが大きな負担となることは間違いありません。その上、正しく手続きをおこなってくれたのかどうかも、自分が他界した後であれば確認することも出来ません。
必ず行って欲しい死後事務がある場合は、費用は掛かってきますが専門性と信頼度の高い弁護士・行政書士・司法書士と契約したほうがよさそうです。
どのような内容を「死後事務委任契約」で結ぶのか
死後事務委任は「身近な一般の人(親族や友人・知人)」にお願い出来ること、「専門家(弁護士・行政書士・司法書士)」に依頼することを分けることも可能です。というのも、それほど想定される死後事務が多いからです。
一般的に想定される、死後事務委任の一例を挙げておきたいと思います。
- 行政への届け出(死亡届、戸籍関係の手続きなど)
- 自治体への資格抹喪失手続き(社会保険、年金、健康保険など)
- 火葬許可証の申請・受領
- 葬儀・火葬、埋葬・散骨等、供養に関する死亡直後の手続き
- 病院・施設等の精算と、退院・退所手続き
- 住居の管理や生活用品・家財の整理や処分
- 公共サービス等の解約・清算手続き
- 車に関わる手続き(運転免許の返納や車の廃車手続きなど)
- 通信関係(携帯電話、パソコン等のデーター抹消など)
- インターネット上の手続き(SNSやホームページの閉鎖・死亡告知・解約退会処理)
- ペットの引き渡し
- 生命保険などに関する手続き
死後事務委任がスタートするときには、当然ですが委任者は死亡していますので、生前契約時に死後に不都合が生じないようにしておきましょう。
死後事務委任契約の費用について
死後事務委任契約の費用に相場の決まりはありません。
- 一般の方(知人・友人)であれば、話し合いをして費用を決めることになります
- 専門家にお願いする場合は、提示された費用に基づいて支払う形になります
専門家によって費用が大きく違いますので、無料相談などを活用して複数のところを検討するといいでしょう。一概には言えませんが、一般的に行政書士・司法書士は弁護士よりも費用が安い傾向にあります。
どこからどこまでを依頼するかによりすが、一般的に最低限気になることを全てお願いしようと思えば、100万円前後が一般的な相場となります。
安い金額ではありませんので、「車の廃車手続き」「遺品整理の手配」など生前に自分で出来るものは済ませておいたり、ペットのことや携帯、運転免許の返納といった誰でも知識がありそうなことは知人にお願いするなどの方法もとれるでしょう。
~「死後事務委任契約」費用についての注意点~
死後事務にかかる費用と、報酬として専門家に払う費用はそれぞれ別に発生します。専門家(弁護士・行政書士・司法書士)に支払う費用は、その専門家への報酬となります。
それとは別に、葬儀や火葬・病院代の支払いなどの費用は別で委託者が準備しておかねばなりません。
そうした別途かかってくる費用(預託金)は、目安として150万円未満で収まるのが一般的のようで、あらかじめ一定額の金額を預託しておくことになる場合が多いそうです。預託先は、死後事務をお願いした専門家でもいいですし、信託会社に預託するという方法もあります。
信託会社に預託した場合はさらに費用が掛かってしまいますが、万が一の受任者による使い込みのリスクや受任者の職場が倒産してしまった場合などの預託金の返還に対する心配が減るというメリットがあります。
遺言ではダメなのか?
死後事務委任(受託者)と遺言を受けた人(遺言執行者)は、亡くなった方の手続きを進めるという点では同じでですが、大きな違いがひとつあります。
- 遺言…財産についての記載しかできない。(遺産の遺贈、信託の承継先、不動産の相続など)
- 死後事務委任…財産承継以外のことは自由に決めることができる。
遺言執行者は遺言に残された財産の承継の手続きしか行えないの対して、死後事務委任は財産の承継以外であれば、自分の希望にそって様々なことを自由に取り決めすることができるのです(お墓のこと、葬儀のこと、ペットのことなど)。
死後事務委任だけでは財産承継の対応を任せることができず、遺言だけでは死後事務の対応を任せられない。
死後事務に関するサポートサービス『信託プラン』
- 周囲の人に迷惑をかけたくない
- 頼れる身内がいない
- 弁護士や司法書士の知り合いがいなかったり、相談しに行くのが億劫に感じる
- 万が一に備えておきたい
そんな方におすすめなのが、生前、自分が亡くなった後のことを決めておき、ご逝去後に代行する『心託』サービスです。
出典:心託プラン
教育を受けたスタッフが全国に1万人以上、提携事業者数は全国で2000社以上。安心できるサポートサービスですので、気になる方は相談から始めてみるとよいでしょう。
『おひとりさま』が考えておきたい、要介護状態になった時のための契約
死後事務委任契約は、おひとりさまにとって「自分の死後についての安心を得るもの」だと分かってきたと思います。ここからは、参考までに「おひとりさま」が、介護が必要になった場合の2つの制度を伝えさせてください。
そのふたつが、以下になります。
- 任意代理契約…自身の判断能力はあるが身体が不自由になった場合に、見守りや財産管理などを任せるもの
- 任意後見制度…自身が認知症になり、「財産の管理」「医療・介護の契約」「各種手続き」などを自分行えなくなったことを任せるもの
詳しく解説していきたいと思います。
任意代理契約(財産管理委任契約)
任意代理契約(財産管理委任契約)とは、自身の判断能力はあるが身体が不自由になった場合に、見守りや財産管理などを任せるものです。
自分の財産管理(一部、または全部)を自分で選んだ代理人に委任する、民法上の委任契約の規定に基づくものとなります。
自身の判断能力が衰えていないことを前提で利用するものですので、これから後述する「任意後見契約」の利用をスタートすれば任意代理契約(財産管理委任契約)は必然的に終了することとなります。
任意後見契約
任意後見契約は自身が認知症になり、「財産の管理」「医療・介護の契約」「各種手続き」など、自分で行えなくなったことを任せるものです。
任意後見人の契約は、本人の判断能力があるうちに「将来の判断能力が不十分になってしまった自分」に対し、後見内容と後見人を事前に契約しておく制度で、公正証書も必要となります。
家庭裁判所においても、本人があらかじめ選任した任意後見人を、家庭裁判所が選任した任意後見監督人より監督することになります。
認知症と診断された場合、家庭裁判所に申し立てをして任意後見監督人の選任をしてもらいます。
家庭裁判所に任意後見監督人がなぜ必要なのかといえば、本人が選んだ任意後見人が問題なく後見をしているか確認をするためです。(任意後見契約の効力が生じるための絶対的条件となります)
「任意後見契約」は、判断力が衰えてからその人が他界するまでのサポートですので、死亡した時点で契約終了となります。その後、法的な効力があるのは今回お伝えしている「死後事務委任契約」や「遺言書」となります。
「成年後見制度」などもありますが、また役割が違うものとなります。
「任意代理契約(財産管理委任契約)」「任意後見契約」「死後事務委任契約」は同時利用する
今回お伝えしている「任意代理契約(財産管理委任契約)」「任意後見契約」「死後事務委任契約」は単独で利用されることはほとんどないのです。
「任意代理契約(財産管理委任契約)」「任意後見契約」は、必ずと言っていいほどセットで利用されます。「死後事務委任契約」も含め3点でセットにして利用することを専門家も推奨しています。
- 判断能力がある場合の財産などの管理を任せる、任意代理契約(財産管理委任契約)
- 判断能力が衰えた場合の財産の管理や生活の手続きを任せる、任意後見契約
自身の判断能力があるうちに方法を決めて、このふたつを契約しておけば老後の備えとなります。身よりはあるのだけれど、単身で暮らすおひとりさまの方なども安心の備えとなります。
このふたつの契約に加え、自分の死亡後の事務手続きを死後事務委任契約として結んでおけば、周囲に迷惑をかける心配もなくなります。
頼れる身寄りがないおひとりさまは、こうした手続き・契約をしておけば自分自身はもちろんのことですが、疎遠になっている親族や、周りの知人へ迷惑がいかないようにすることが出来るのです。
『おひとりさま』死後のために今できること
「死後事務委任契約」という言葉が広まり始めたのは最近のことです。
冒頭でお伝えしたように、少子高齢化の日本は4世帯に1世帯が独居高齢者というデーターが出ていますし、夫婦のみで暮らす独居高齢者予備軍を合わせると多大なひとが「おひとりさま」となります。
死後事務の問題が社会問題となりつつあり、メディアや新聞などでも取りざたされるようになりましたし、今後は「死後事務委任契約」を利用するかたは更に増えていくはずです。しかし現実的な問題として「事後事務」を一般の人が受け「誰かの人生を最後の最期を迎えた後」も責任をもって見届けるということは消して簡単なものではありません。
そうしたことを踏まえ「生前整理」の一環として「死後事務」をなるべく減らしていきましょう。
自分自身が無理なく可能な範囲で「死後事務」を減らせば、不安の解消にもつながりますし節約にもつながります。
例えばですが…
- 運転免許は返還手続きを済ませておく
- 使用していない契約を解約する
- インターネット上やパソコン上でのパスワードは、ひとまとめに分かるようにする など
残されたことを減らし、シンプルな暮らしを目指すことも終活において大切なことなのではないでしょうか。
まとめ:『身寄りなきおひとりさま』死後の手続きと備え【死後事務委任契約とは】
今回は、身寄りなきおひとりさまの死後を託す「死後事務委任契約」についてお伝えしてきました。
死後事務委任契約とは、自分の死後の諸手続きや葬儀、納骨、埋葬などといった事務手続きを、第三者(個人・法人)に代理権を与えて委任する契約のことを言います。
そして、「任意代理契約(財産管理委任契約)」「任意後見契約」といった生前の身の回りの管理契約と同時に結ぶことを推奨されています。
死後事務を考えることは、残された人生をシンプルにして生きやすくするという、終活の一環でもあります。
「終活の相談窓口」では終活に関する様々なサポートを行なっております。
竹内
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